黒博物館 三日月よ怪物と踊れ 1巻 感想「藤田和日郎」フェミニズムと怪物!?
公式あらすじより引用
ガス燈が霧ににじむヴィクトリア朝のロンドン。ロンドン警視庁〈スコットランド・ヤード〉の犯罪資料室「黒博物館」を、歴史的ホラーヒーローの「生みの親」が訪れる。彼女が閲覧を希望したのは、赤いブーツ…2年前、女王主催の舞踏会で起きた怪事件の遺留品だった。そして女は、一人のおぞましく、あまりにも奇妙な女剣士の思い出を語りだす。
第1シリーズ『黒博物館 スプリンガルド』、第2シリーズ『黒博物館 ゴーストアンドレディ』に続く大英帝国伝奇アクション待望の第3シリーズ、開演!
先生の母、フェミニズム先駆者なの!?(史実)
今回の主人公は「文筆家」だ!!
人間扱いされない女性労働者たち、転じ「人でない怪物」が働く姿を描く着眼点が面白い。藤田先生得意のおっかない最強の相棒と、そいつが怖くて仕方ない主人公の組み合わせ。
史実を活かした動機、強さと想像力で切り抜ける様が魅力的!!
語り部視点での学芸員さんも可愛い
第1話「フランケンシュタインの怪物」
舞台は、英国内全事件の証拠が展示されたロンドン警視庁「黒博物館」
フランケンシュタイン作者メアリー・シェリーは「舞踏会」事件の証拠見学中、自分は当事者だと告白。女性学芸員がファンだった事から顛末を語る事になりました
情報量が多い!!
メアリー先生はいやあな目つきの黒髪
嫌味で「女性の地位」を気にするセンシンテキな人物……
と思いきやまあ良い笑顔!!
曰く作家は褒められるのが大好き!! これ絶対藤田先生の本音ですわ
コマ割りがインパクトあった!!
1841年の英国ドーヴァー海峡、英国近衛が「女七人」に大損害
いずれも舞踏会の装いをした奇怪な集団
辛くも隊長が「最強の女」を撃破へ
アレックス・ダンヴァーズ隊長、ごく自然に「死のう」と動くのがたまりません
燃える責任感、死中に活ありですわ
翌1842年メアリー先生の欠乏
フランケンシュタインを書いて以来、生活の為に書いて書いて書き続け、もはや「書きたいもの」もなくなってしまった……
作家の悲哀しかない登場シーン
息子の為、気合で書く!生き生きしてるものの内面は空虚
風船みたいにぺえらぺらでした
悲しい…
が、なるほど「良い出会い」ですわ
それが「蘇生させた死体を、舞踏会に出せるよう教育して欲しい」という英国近衛からの依頼
何故なら、あなたなら出来るはずだ
あんな物語を書いたなら
と
無茶ぶりから始まる最高の出会い!!
ダン隊長、なんて冷静な判断力
それは男性には難しい話
ですが女性では、おぞましい「死体」に怯えて何も出来ないから、メアリーに白羽の矢が立ったと。需要と供給の驚くべき一致!!
隊長、ナイスマッチング!!
第2話「2人の怪物」
メアリー先生は、元々「自分が書いたフランケンシュタイン」にうなされていました。怪物を“頭で”創造した自分もまた怪物なのではないか?と
数々の怪物、人間を描いてきた藤田先生
なんか妙にリアルに感じますね…
とまれメアリー、その矢先だったんで余計びっくりしたらしい
開けてビックリ棺箱ですわ
全ては英国女王を「舞踏会」で守る為
七人の女は、ナポレオンも恐れた「コサック」の暗殺者たち
その狙いは英国女王!!
…と思われる。
そこで「死体」に護衛させる為、舞踏会知識を叩き込まなきゃいけないんですね
コサックってそんなスゴいんだ…
「女性の権利」に煩いメアリー先生
実は先生の母は、フェミニストの先駆者と謳われた「メアリ・ウルストンクラフト」だから(史実)。
女性の権利、という現代的なテーマながら
バックボーンは史実なのか
そりゃ知らなかった!?
先生の生涯は驚くほど「死」と縁深い
時代が時代だからにしても。
件の母は彼女を生んで死に、我が子も次々夭折、夫も海難事故で死亡
母に生かされた、なのに自分は生かせない
藤田先生らしい「親子と命」ですが
今回は史実ベース
事実ってつくづく小説より奇なり
ですが見るも恐ろしい怪物の第一声
まさか「仕事をください」とは…
先生と同じ!? メアリー先生の共感性をぶち抜く一言でした。まあ直後に怖くて突き落としちゃったんですが
メアリー先生ただもんじゃねえな!!
初見とキャラ違い過ぎィ!!
際し、頭は粉々ゆえ「村娘の死体」で代用
死体は朴訥な性格になりました
頭だけの入れ替え、近年中国で実際に行われた手術を彷彿としますね
時代が創作に追いついてきてますわ
第3話「怪物の名前」
先生は、あの「フランケンシュタインの名もなき怪物」はどうして「怪物」になった?と考えた
本作は、“逆”を考えていく物語か!!
逆に考えるって大切
どんなピンチも切り抜ける魔法の発想だ!!
メアリーは死体に「名前」をあげた
館は「死体」出現に大騒ぎ! どうやって鎮静する? 今回に限らず、メアリーは死体が“その場に溶け込めるように”考える人なんですね。試されるのは作家の想像力!!
作家主人公ならでは!!
メアリーは“死体”をエルシィと命名
名前が怪物を「人」にする。なるほど…
なんか狼少女も思い出しますわ
本作はバトルであり教育であり、「しいたげられた女性が、権利を取り戻す」フェミニズムな物語なんですね。死体とフェミ、両者を繋ぐのは“働きたい”事
言い換えれば「生きたい」事
死体の物語を、こんなに生き生き描くとはなんて発想でしょうか
続きを聞きたがる学芸員に、メアリーが困惑するまでがテンプレ
逆にメアリーも学芸員さんを翻弄するので
良い語り手よい聞き手ですわ
幕間パート、思ったより多く良いアクセント
第4話「怪物の仕事」
メアリーは「エルシィは“屋敷で働く物語”の舞台役者、仕草を学ばせる為にここで仕事をさせて欲しい」とでっちあげ、屋敷の皆を納得させました
やるじゃんウソつき先生!!
無論、誰も働かせてはくれませんでしたが。
が、切り抜けただけでも大したもの
皆「理由」があればいい
死体が蘇った、なんて事実より「劇団員」というウソの方が現実味がある
異世界おじさんの3話とか思い出しますね
調理場メイドの妹さんが、クズな夫に苦しめられていました
これまた男尊女卑のお話
メイドさん曰く、脅かしてやって性根を入れ替えてやってくれというでしたがまあひどいひどい。
女房も我が子も人間扱いしていない
奴隷のように扱う“男たち”
メアリー先生にも刺さる案件だった!!
先生の旦那もアレだったのか…
でもそういう時代なのね
第5話「怪物の挨拶」
エルシィは咄嗟に男を懲らしめ、“戦闘能力”がある事を実証
ですが彼女自身には恐怖でしかなかった
彼女にとって、自分はただの田舎娘でしかない
今の自分は自分でないと恐怖
この「折り合い」も大事なんですね
エルシィ、二つの弱点
一つは靴紐。結べば血流が滞ってしまう
もう一つは首の包帯
血流、何より首の傷痕を見たら「自分は死体だ」と自我崩壊を起こす可能性があるのだと
博士の申告なので嘘の可能性も
ただ博士、あまり嘘を言うタイプではなさげ
エルシィの「頭」も不幸な生い立ちだったらしい
人間的な幸福を知らなすぎる
メアリーはサブタイ通り「また明日」と寝る前の挨拶を教えるなど、エルシィの人間性を育てていくんですね
この流れは藤田先生の得意ジャンル
第6話「働く怪物」
調理場で働く事になったエルシィ。優れた身体能力を活かし、家事でも無双!!
と思いきや全くダメだった!!
ですが「昔こういう家事をやってた」との事で、昔の自分を思い出して嬉しそうでした
ただ、思い出しすぎると危なそうですね
今の彼女は怪物なのですから
というかその記憶、頭と体どっちの記憶?
やはり「刃物を使う」事! 体が覚えている為とんでもない腕前!!
なら「家事」はやっぱり頭の記憶?
またそんなエルシィを、メアリーは「人間の真似をしてるようで怖い」と
この溝は簡単には埋まらないようです
第7話「怪物の教育の始まり」
ディッペル博士は女性を蔑む「男性的」な人物
その点では常識的な人物か
対しメアリー先生は猛然と反論!!
でもそんなフェミニズムは、エルシィと関わってから生まれた新しい一面なんだとか
怪物だから蔑まれる姿を見て
女性だから蔑まれる自分を客観視?
先のクズ夫事件もですが、エルシィといると「自分達がいかにひどい扱いを受けてるか」強く感じるようになったのか
ティモシー・シェリー准男爵
女性蔑視と上流意識、差別の塊のような人物か
よっぽど「怪物」ですが
果たして、そんな印象通りの人物なのか
それにこの二つは、エルシィが「舞踏会」で直面する事になるはずのもの
立ち向かわなけりゃならないものなのか
三日月とは、暗殺者の剣に刻まれた紋様
本来の名前に関わるもの?
舞踏会を目指す事、元々「躍るような剣術」である事、副題をどんな形で回収してくるかも楽しみですね
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